AI時代にこそ読みたい『スマホ脳』:アナログな脳を守るマイルール

最近、AIエージェントに作業を任せる機会がグッと増えました。

仕事はかなり楽になった一方、エージェントの処理を待ちながら画面を見続け、数秒の隙にスマホを開く。結果として、以前よりスクリーンタイムが増えている気がします。

そんな「AIとの常時接続」がメンタルや集中力へどう影響するのか。改めて考えるうえで、アンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』は参考になる一冊でした。スマホの本ですが、AIが実用化された今のほうが、より切実な内容かもしれません。

www.shinchosha.co.jp
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1万年前の脳で、最新のAIを回している

本書の前提で一番面白かったのが、人間の脳は1万年前の狩猟採集時代から基本的に変わっていない、という話です。

私たちの脳はサバンナで暮らしていた頃の仕様のまま。それなのに、手元には無限に情報が出てくるスマホがあり、仕事ではAIエージェントと常時接続している。かなりのミスマッチです。

これを知ると、作業中に無意識で別のタブを開いたり、AIの返答を待つ数秒が我慢できずスマホを触ったりするのも納得できます。

意志が弱いというより、脳が新しい情報へ注意を向けるようにできている。現代のアプリやサービスは、その性質を突くように作られています。

スマホと「ストレス」

第2章、第5章、第6章あたりでは、ストレス、スクリーン、SNSとメンタルの関係が扱われています。ここで個人的に面白かったのが、人間のストレスシステム(HPA系:視床下部・下垂体・副腎系)の仕組みです。

人間には、何百万年もかけて発達したこのシステムがあります。昔、例えばサバンナで不意にライオンに出くわすと、このシステムが作動し、最も重要なストレスホルモンである「コルチゾール」を分泌していました。コルチゾールは心拍数を上げ、筋肉に血液を送り込み、瞬時に「闘争か逃走か」の態勢を整えさせます。つまり生存本能の実態ということです。

問題は、この命がけのサバイバル機能が、現代のスマホやSNSによって日常的に作動してしまうことです。

人間は共同体で生きる生物であり、祖先の時代、集団からの追放は「死」を意味しました。そのため、共同体内での自分の「地位」は生存に直結しており、他人との比較によって自分の立ち位置が脅かされると、強いストレスを感じるよう脳に組み込まれています。 現代のSNSのタイムラインは、この他人との比較に終わりがありません。他人の充実した生活を常に見せつけられることが「地位の話」と合わさり、脳に生存の危機としてのストレスを感じやすくさせているようです。

さらにスマホは、絶え間なくドーパミンを与えてくれる巨大な供給源になっています。そのため、スマホを強制的に手放させると、わずか10分で血中のコルチゾールレベルが上昇するそうです。脳が「生存に必要なものが奪われた!」とパニックを起こすわけですね。

コルチゾールがずっと分泌され、脳が慢性的に危険を感じているとどうなるか。やがて脳は「今は危機的状況だから、睡眠や消化なんて後回しだ」と判断し、これが最終的にうつ状態を引き起こすという説明でした。

また、夜遅くのブルーライトも、脳を「今は昼間(活発に行動する時間)だ」と勘違いさせてしまいます。その結果、睡眠ホルモンを抑えるだけでなく、コルチゾールの量まで増やして身体を「戦闘態勢」にしてしまうようです。

特に10代は、衝動を抑える脳の「前頭葉」がまだ発達の途中なので、こうした影響を非常に受けやすいそうです。SNSで他人と比較し続け、夜まで画面を見て睡眠も削られる。自分が10代の頃はまだSNSが発展途上だったのでよかったですが、今の子たちは大変でしょう。

自分のスクリーンタイムを確認すると、「そんなに使っていない」つもりでも、数字で見ると結構使っています。知らず知らずのうちに、自分の脳を慢性的なストレス状態にしてしまっているということですね。

スマホと「集中力」の関係

個人的に一番心当たりがあったのが、第3章、第4章、第7章あたりで語られるスマホと集中力の関係です。

人間の脳は「通知があるかもしれない」という期待でそわそわしてしまい、スマホをサイレントモードにしてポケットへ入れているだけでも処理能力を使うとのこと。見ないように我慢すること自体に、脳の容量を取られてしまいます。

さらに、スマホとPCを行き来するとマルチタスク状態になり、情報が長期記憶に残りにくくなるそうです。本書では、マルチタスク時には線条体、一つのことに集中しているときには海馬が主に使われると説明されています。長期記憶に残りやすいのは海馬を使うほうです。

仕事や勉強中の自分を考えると、かなり心当たりがあります。集中したいからスマホを伏せて置く。でも視界には入っている。通知が来れば見ますし、来なくても何となく触ってしまう。伏せた程度では全然隔離できていません。

最近では、AIの作業が終わっていないかと何度も端末を開き、スマホとPCを行ったり来たりしています。これでは勉強が手につかないのも当然です。

さらに、検索すれば分かる情報を脳が覚えなくなる「グーグル効果」も紹介されています。

AIは検索よりさらに強力です。要約、比較、発想、コードの記述までやってくれる。私自身、分からないことがあると、自分で考える前にAIへ投げる癖がつきつつあります。思考のアウトソーシングとして優秀すぎるのが悩みどころ。

AIによって、グーグル効果のような現象がさらに進む可能性は容易に想像できます。検索すらせずに答えが出るなら、脳はますます情報を覚えなくなるのではないか。……笑い事ではないですね。少し考えれば分かることをAIに聞いた経験は何度もあるので、さすがに頭をちゃんと回していきたいところです。

ただAIを使わないという選択肢はありません。だからこそ、思考の主導権まで渡さないために、自分なりの線を引く必要があります。

最低限、AIに何をどう聞くか決めるところまでは自分の脳を使う。この線は残しておきたいです。

「運動」という対策

第8章以降では、集中力やメンタル不調への対策として、運動がかなり強く勧められています。

数分身体を動かすだけでも集中しやすくなり、週3回、45分程度の心拍数が上がる運動を続けると、ストレスに対する「心のエアバッグ」になるとのことです。

正直、少し運動を万能薬のように扱いすぎでは、とも感じました。著者の別の本である『運動脳』へつなげたいのかな、と勘ぐってしまう。そもそも、運動を続けられる人はメンタルが強いのではないか、という鶏と卵の問題もあります。

とはいえ、そこで全部を疑って何もしないのも違います。研究では、運動したグループで集中力や抑うつ症状などに改善が見られています。祖先が集中力を最大限に使ったのは、狩りや移動で身体を動かしているときだった、という説明にも一応納得感がありました。

ただ、自分にとっては外へ出てランニングするのはハードルが高い(走る場所がないという言い訳)。VRゴーグルでボクササイズをして、一気に心拍数を上げるくらいのほうが自分には合いそうです。

AI時代に残しておきたいアナログな習慣

テクノロジーは凄まじい速さで進化していますが、私たちの脳はアナログなままです。AIやスマホを毎日使っていれば、そのうち脳がうまく適応してくれる、というわけではなさそうです。スマホが普及して時間がたっても、問題は増えていくばかりですし。

まずはスクリーンタイムを確認し、寝るときや勉強するときはスマホを離す。AIを開く前に10分だけ考える。小さなマイルールですが、このくらいなら続けられそうです。

脳の主導権までシステムへ渡さないために、その脆さを知っておく。『スマホ脳』は、AIを日常的に使うようになった今こそ読み返したい一冊でした。