『自閉症の脳を読み解く』を読んで、自分の脳に折り合いをつける

人との会話で言葉がうまく出なかったり、少し前に聞いたことが抜け落ちたりと、生きづらさを感じる場面があります。

脳の違いが情報処理にどう影響するのか知りたい。そんな興味から、テンプル・グランディンとリチャード・パネクの『自閉症の脳を読み解く』を読みました。

自閉症について全部まとめると長くなるので、自分が引っかかったところと、あとから見返したい部分だけ残します。

診断名だけでは分からない

自閉症は、かつて親の育て方が原因とされ、DSMでも統合失調症の一症状から独立したスペクトラムへと扱いが変わってきました。認知の広がりや、知的障害などからの診断の置き換えもあり、診断される人数も増えてきています。

診断名は支援へつながるために必要です。ただ、基準に当てはまるかどうかだけでは、その人がなぜ困っているのかまでは分かりません。

本書で面白かったのは、著者自身の脳画像に、得意と苦手の両方に関係しそうな極端な偏りが見つかったことです。

脳の特徴著者が結びつけている特性
視覚系の接続が強い映像記憶や物体認識が得意
聴覚系の接続が弱い聞き取りや会話が苦手
小脳が小さい運動協調が苦手
扁桃体が大きい不安や恐怖が強い

著者の脳は、視覚系のつながりは強いのに、聴覚系はかなり弱い。脳全体が優れている、あるいは劣っているという話ではありません。同じ脳の中に、得意なところと苦手なところが極端な形で存在しています。

自分も、文章なら理解できるのに、口頭で一度に説明されると抜け落ちることがあります。著者と同じ脳だという話ではありません。ただ、できることとできないことをまとめて一つの能力として見るのは、かなり雑なのだと思いました。

脳画像と遺伝子検査は、別のものを見る

本書には脳画像と遺伝子の研究がどちらも出てきます。混ざりやすいので、違いだけ整理しておきます。

脳画像遺伝子検査
見るもの現在の脳の構造、活動、接続DNAの変異や欠失、重複
分かるかもしれないこと情報処理に関係する特徴背景にある遺伝的要因
限界原因と結果を区別しにくい変異の意味が不明な場合がある
自閉症の判定単独ではできない単独ではできない

遺伝子検査は、生まれ持ったDNAの情報を調べます。脳画像が映すのは、発達や経験を経た現在の脳です。遺伝子を見ても今の働きまでは分からず、脳画像を見ても、なぜそうなったかまでは分かりません。

単一の「自閉症遺伝子」があるわけでもありません。客観的な検査で「自分がなぜこうなのか」が全部分かれば楽ですが、現状はそこまで単純ではなさそうです。現在も自閉症の診断は発達歴と行動の評価が中心です。

画像で考える人と、パターンで考える人

一番面白かったのは第7章です。これまで「映像で考える人」と「言葉で考える人」という分け方は知っていましたが、本書では視覚思考をさらに二つに分けています。

思考タイプ情報の捉え方本書で挙がる分野
物体視覚思考具体的な画像、色、形、質感デザイン、物作り、観察
パターン思考、空間視覚思考位置関係、構造、規則性数学、プログラミング、音楽
言語・事実思考言葉、事実、リスト執筆、調査、情報整理

物体視覚思考は、建物の色や窓、材質まで写真のように思い浮かべます。一方、本書でパターン思考とも呼ばれる空間視覚思考が捉えるのは、柱の配置や部品同士の関係、その裏にある規則性です。

自分は具体的な映像は鮮明に浮かびません。システムを構成図やツリーとして捉え、要素同士の関係を整理することのほうが多い。たぶん自分はパターン思考に近いです。

短期記憶にはあまり自信がないのにSEを続けられているのは、この考え方が仕事と相性がいいからかもしれません。第7章を読んで、なぜ自分がこの仕事を続けられているのか、少し分かった気がしました。

外へ出すのか、ルーティンを守るのか

読んでいて少し引っかかったところもあります。

著者は、子どもを外へ連れ出して新しい体験をさせるべきだと書きます。一方では、変化の少ないルーティンワークが自閉症者に向いているとも述べます。最初は少しダブルスタンダードに感じました。

よく読むと、話している段階が違いました。外へ出すのは、まだ知らないものに触れて関心を増やすときの話です。ルーティンは、見つけた得意なことを仕事で安定して続けるための話でした。

小脳が20%小さい話が何度も出てくる

もう一つ気になったのが、著者が「自分の小脳は標準より20%小さい」という話を何度も持ち出すことです。また小脳の話だ、と思うくらい出てきます。

著者は、何年練習してもスキーがうまくならなかった理由を、小脳の小ささと結びつけます。長年の苦手さに初めて納得できる説明が付き、「努力が足りない」という自責から少し離れられた。それだけ大きな発見だったのかもしれません。

同時に、「小脳が小さいから運動が苦手」ときれいに結びつけすぎているようにも見えました。脳画像だけでは原因と結果を簡単には証明できません(と著者自身で述べています)。納得できる説明が見つかったときほど、それを唯一の答えにしたくなる。これは自分にもありそうです。

それでも、脳は変わる

小脳や扁桃体の話だけを読むと、生まれつきの脳で人生が決まるようにも見えます。しかし本書には、経験によって脳そのものが変化する「脳の可塑性」の話も出てきます。

本書で何度か出てくるのが、ロンドンのタクシー運転手です。複雑な道路網を数年かけて覚える訓練生を追跡した研究では、試験に合格した人だけ、空間記憶に関わる後部海馬の灰白質が増えていました。不合格だった人と対照群には、同じ変化が見られなかったそうです。

とはいえ、「脳は筋肉だから、鍛えれば何でもできる」とまで言うと少し雑です。著者の小脳のように努力では埋めにくい部分もあり、タクシー運転手の研究で変化したのも、訓練に関係する特定の領域でした。

自分のパターン思考ももしかすると生まれつきだけで決まったものではなく、学生のころからコードを書いてたこともあり、特性が強まったのかもしれません。

※使わない状態で時間がたつと可塑性で変わった部分は元に戻ります。

自分の脳に折り合いをつける

この本を読んだからといって、自分が自閉症かどうか分かるわけではありません。そもそも自己判定のための本ではなく、著者が自分の脳について調べ、分かったことをどう受け止めてきたかが書かれています。その経験から、他の当事者や家族への提案もしています。

苦手な理由が分かれば、努力不足だと自分を責めずに済みます。その一方で、よく使う部分は大人になってからも変わるかもしれない。できないことを受け入れる話と、できることを伸ばす話の両方があるのがよかったです。

自分はたぶんパターン思考寄りです。知っているパターンに当てはまるものは理解しやすいのに、前提が急に変わると処理が追いつきません。そこを無理に平均へ近づけるより、口頭で受けた情報は文章に出し、構造やつながりに置き換えて考える。そのほうが自分の脳は動きやすいようです。