『メンタル脳』を読んで、不安を俯瞰してみる

『スマホ脳』『多動脳』に続いて、アンデシュ・ハンセンとマッツ・ヴェンブラードの『メンタル脳』を読みました。

本書は、アンデシュ・ハンセンの『ストレス脳』を、平易かつコンパクトにした本です。その中心にあるのは、「脳は人を幸せにするためではなく、生きのびさせるために進化した」という考え方でした。

不安や落ち込みをなくす方法というより、なぜそんな感情があるのかを知る本です。あとから思い出したいところを、自分なりに整理します。

脳は幸せより生存を優先する

人類の大半の歴史では、感染症や飢え、事故を免れ、生きのびること自体が困難でした。本書は、今の脳もその環境に適応した仕組みを引き継いでいると説明します。

危険から離れるための恐怖、問題へ備えるための不安、集団から外れないための孤独感。感情は、脳が行動を変えさせるために使う信号です。

そう考えると、嫌な感情があること自体は故障ではありません。ただ、昔の環境では役立った警報が、現代では必要以上に鳴り続けることがあります。

こうした仕組みがメンタルにどう影響するのか。それをどう捉え、対処し、折り合いをつけていくのか。本書から得られるのは、そのための知識です。

不安とストレス

危険を見落として命を落とすより、何もなくても警戒したほうが生存には有利です。そのため脳は、確実な危険だけでなく、「危険かもしれない」という予測にも反応します。これが不安の正体です。

一方、ストレスは、感情というより身体の反応です。自分はこれまで混同していましたが、不安とは別のレイヤーの話でした。

ストレスがかかると、身体は筋肉へ血液を送るために心拍数を上げ、目の前の状況へ集中し、そのとき必要のない器官をスリープモードにします。これが、戦うか逃げるかの準備を整える、いわゆる「闘争か逃走か」の状態です。

本書では、このストレスと「不安」の違いを以下のように整理しています。

  • ストレス:現実に目の前にある具体的な「危険」に対する、直接的な身体反応
  • 不安:「危険かもしれない」と脳が事前に予測したときに作動する反応。いわば「事前のストレス」

記憶は記録ではない

記憶は過去をそのまま保存した映像ではなく、思い出すたびに組み立て直されます。本書では、今の行動を決めるための道具として扱われていました。

つらい記憶が繰り返しよみがえるのは、脳の警報センターである扁桃体が作動し、記憶センターである海馬に「絶対に忘れるな」と強く刻み込まれるからです。フラッシュバックは、同じ危険に二度と遭わないよう、脳が必死に警告する過保護な防御システムだと説明されています。

また、記憶には、思い出すたびに不安定になり、そのときの気分によって書き換わる性質があります。安心できる環境でつらい記憶を言葉にして話したり、書き出したりすると、脳は「今は安全だ」という感覚で記憶を塗り替え、恐怖を弱めた状態で再保存できるようです。話すことで「上書き保存」する。カウンセリングなども、こうした仕組みを利用しているのでしょうか。

結局、運動が大事

『スマホ脳』でも『多動脳』でも運動を勧められましたが、今回も運動です。

脳は心拍や呼吸、血糖値など、身体から届く情報も使って感情を作ります。身体を動かすことは気分転換というだけでなく、ストレスに対する身体の反応そのものへ働きかける。本書では、不安や落ち込みへの対策として繰り返し紹介されています。

あと人間関係

もう一つは、人とのつながりです。人間にとって集団から外れることは、かつて生存に関わる問題でした。孤独になると脳が警戒を強め、他人を信用しにくくなる。その結果さらに孤立し、ストレスが増すという悪循環に陥ります。

反対に、人と深く関わるとエンドルフィンが分泌され、ストレスを感じにくくなります。すると、さらに人と関わりやすくなる。この好循環を作っていけると良さそうです。簡単に言うなという話ではありますが、人と関わる一歩が大事だと知れただけでも前進です。

遺伝子があっても、結末までは決まらない

うつや不安は、一つの遺伝子だけで決まるものではありません。多くの遺伝的要因と環境が重なり、なりやすさが変わります。本書では、遺伝子は可能性に影響しても、人生の結末までは決めないと説明しています。

脳にも可塑性があり、経験によって変化します。ただし、「考え方や努力ですべて変えられる」と受け取るのも違う気がします。睡眠、運動、人間関係、長く続くストレスなど、自分の意志だけではどうにもならない条件も脳に影響します。

遺伝だから諦める必要はない。一方で、本人の努力だけに責任を戻してもいけない。

幸せを直接の目標にしない

脳が生存を優先するなら、満足が長く続かないのも不思議ではありません。何かを手に入れても、しばらくすると次が欲しくなる。ずっと満足したまま動かなくなるより、次の食べ物や安全な場所を探すほうが生存には有利だったからです。

常に幸せでいなければならないと思うと、不安や落ち込みがあるだけで失敗した気分になります。気分そのものを採点するより、今日よく眠れたか、少し身体を動かしたか、誰かと話せたかを見るほうが良さそうです。

メンタルとどう向き合う

この本を読んで一番残ったのは、嫌な感情にも役割があるということでした。

不安になるのは弱いからでも、脳が壊れているからでもない。生きのびるための仕組みが、今の環境に対して敏感に反応しているのかもしれません。そう考えるだけでも、自分まで否定せずに済みます。

不安になったとき、そのまま飲み込まれるのではなく、少し引いて「人間してるな」と考えてみる。一呼吸置くだけでも、状況をいくらか俯瞰できそうです。そのあとに少し身体を動かすところまで習慣にできれば、なお良いのかもしれません。

人と話すことから逃げない。幸せの基準を、持っている物だけで測らない。すぐには難しくても、できるところから試してみたいです。

不安について考えすぎて不安になっても仕方がないので、このくらいで終わっておきます。