【書評】『説得は「言い換え」が9割』を口下手な私が読んでみた感想と実生活で使えるテクニック

みなさん、人を説得するのは得意ですか?私は大の苦手です。 「あ、いいです」と断りたいのに「あ、はい」と言ってしまい、後で後悔するタイプです。

そんな私が、タイトルに惹かれてつい買ってしまったのがこの本です。

『説得は「言い換え」が9割』

「9割」系…普段は敬遠しているのですが、「口下手に効果あるかも」という淡い期待を抱いて手に取りました。

結論から言うと、半分は日常で役に立ち、残りの半分は「これ、いつ使うの?」という修羅場用のテクニックでした。

「言い換え」という名の魔法(あるいは詐術)

この本のコアコンセプトはシンプルです。「事実は一つでも、解釈は無数にある」。 相手が「No」と言いたくなる事実を、視点をずらして「Yes」と言いやすい言葉に変換する。これが「リフレーミング」です。

ネガティブをポジティブに

例えば、名将・小出義雄監督のエピソード。 選手がケガをして落ち込んでいる時、「ケガをして残念だね」ではなく、こう声をかけるそうです。

「せっかく神様が休めといってくれているんだから、しっかり休もう」

「ケガ」を「神様がくれた休暇」と言い換える。これなら日常でも使えそうです。「仕事でミスった」→「成長のチャンス」みたいな。まあ、言われて嬉しいかは別として、論理としては分かります。

相手を動かす「大義名分」

もう一つ、「なるほど」と思ったのが「大義名分」を用意すること。 豊臣秀吉が刀狩りを行った際、「武器を取り上げる」と言うと反発を招くので、こう言い換えました。

「没収した武器は、いまつくっている方広寺の大仏建立の釘や鎹(かすがい)にするから、百姓は来世まで救われるぞ」

「没収」ではなく「寄進」。 「武器を奪われる(損をする)」という事実を、「大仏建立に貢献して救われる」という大義にすり替えることで、相手に「No」と言わせなくする。現代のビジネスでも、「値上げ」を「品質維持のための価格改定」と言い換えるのは、この「大義名分」の応用と言えそうです。

バブルの香りがする「黒い」テクニック

さて、ここからがこの本の真骨頂。著者の向谷匡史氏は、元週刊誌記者で、僧侶で、空手家という異色の経歴の持ち主。 そのせいか、紹介される事例がどこかアングラで、バブル時代の夜の匂いがプンプンします。

ダブルバインド(二者択一)

借金の取り立ての例が出てきます。 「払うか、払わないか」を聞いてはいけない。「いつ払うか」を聞け。さらに言えば、

「今すぐ全額払うか、それとも半分だけ払って残りは来週にするか?」

と聞くのがコツだそうです。 相手は「全額は無理だけど、半分なら……」と、いつの間にか「払うこと」自体は受け入れてしまう。

これ、営業テクニックとしては王道ですが、日常生活で友人にやったら確実に嫌われます。 「飲みに行くか行かないか」ではなく、「イタリアンか焼肉か」と聞くくらいにしておきましょう。

脅してから救う(ゲイン・ロス効果)

個人的に一番衝撃だったのが、ヤクザの揉め事処理の事例です。

部下に相手組織へ謝罪に行かせたい時、ただ「頭を下げてこい」というと反発される。そこでこう言い換えるそうです。

「向こうは、おめぇの腕一本よこせと言ってきてるんだが、それは俺が突っぱねてある。余計なこと言わねぇで、頭を下げてきな」

「腕一本」と言われた後なら、「頭を下げるだけ」がものすごくラッキーなことに思える。 これを応用して、経営者が給料カットをする際も「倒産するかも」と最大限脅してから「2割カットで済んだ」と言うと感謝されるとか。

……いや、完全にパワハラですし、ブラック企業の論理です。 現代なら即アウトな案件ですが、人間の心理の隙間(コントラスト効果)を突くという意味では、恐ろしいほど理にかなっています。

口下手な私たちがパッと使えそうな「キラーフレーズ」

アングラな話ばかりしてしまいましたが、最後に一つ、私のような口下手でも明日から使えるテクニックを紹介します。

それは、目上の人に対する「教えてください」です。

「釣りをやってみようかと思ってるんですが」 「よし、連れて行ってやろう」

人は「教える」ことで自尊心が満たされます。 ただ質問するだけでなく、「こんな風に考えてみたんですが、どうでしょうか?」と自分の考えを添えてから「教えてください」と言うと、さらに評価が上がるとか。これなら、会話の間が怖い私でも、相手に喋ってもらうことができるので使えそうです。

結論:劇薬として持っておく

正直、読んでいて「うわぁ……」と思う部分もありました。 著者の語り口が「若造に世の中の厳しさを教えてやる」的な、いけ好かないバブルおやじ感を醸し出しているからです。

でも、不思議と読み進めてしまうエンタメ性があります。 それはきっと、私たちが普段「きれいごと」だけのコミュニケーションに疲れているからかもしれません。

この本に書かれていることの全てを実践する必要はありません(というか、しないでください)。 ただ、「世の中にはこういうロジックで攻めてくる人がいる」と知っておくだけで、防御力は格段に上がります。

「言い換え」は武器です。 自分の身を守るために、あるいは本当に困った誰かを助けるために、ポケットに忍ばせておくナイフのような一冊でした。