エンジニアとして働いていると、評価制度(Performance Review)の不透明さや理不尽さに直面することがあります。どのように目標を立て、どう評価されるかは、キャリアを築く上で避けては通れない課題です。
そんな中、『目標未達でも給料が上がる人』という本を読みました。タイトルはやや刺激的ですが、内容は評価制度というシステムの裏側を突いた、非常に現実的な内容でした。結論から言うと、前半の戦略的な目標設定は非常に参考になりますが、後半の社内政治に関する記述には強い抵抗感も覚えました。
評価制度の仕組みを理解する(第4章・5章)
この本の最も有益な点は、評価を「頑張り」という抽象的なものではなく、明確な要素の組み合わせとして定義している点です。
評価の方程式と難易度の重要性
著者によれば、評価の方程式は以下の通りです。
評価 = 目標の難易度 × 目標の達成度
達成度は期末の実績値であるため、後から動かすことは難しいですが、難易度は事前の調整が可能です。
著者によれば、自分の実力に対してあえて「少し難しそうに見える」目標を設定し、難易度ポイントを稼ぐことが、効率的に高い評価を得るコツだといいます。簡単すぎる場合は達成度が高くても評価が高くなりにくい、高すぎると逆に圧倒的に未達になるリスクがあるという意味では、実務的な防衛策と言えるでしょう。
逆SMARTの法則とキーワードの活用
一般的に推奨される「SMARTの法則(具体的、測定可能など)」は、逃げ場をなくし、かえって自分の首を絞めることになりかねないと著者は指摘します。
そこで提唱されているのが「逆SMART」。目標にあえて抽象的な部分を残し、状況の変化に応じて解釈の余地を持たせる手法です。その際、上司が納得しやすい「鉄板ワード」を活用することが推奨されています。
- 「選択と集中」「差別化」「競争優位」などのビジネス用語
- 「強化」「確立」「貢献」「更新」など、説得力の強い言葉(Kワード)
これらを適切に組み合わせることで、自分が取り組んでいる課題の重要性を高く認識させることが可能になります。
交渉としての評価面談
評価面談は、自分が判断される場ではなく、自分が評価されるべき理由を上司にロジックとして伝える「教育の場」であるという指摘には、確かに一理あります。
事前準備として、交渉が決裂した場合の代替案(BATNA)を考え、想定問答を用意しておくこと。これにより、感情的にならずに一貫した主張を通すことができます。「どうすればより高い評価が得られるか」を論理的に問いかけ、上司側にボールを投げる姿勢は、建設的な交渉術として活用できるでしょう。
人間関係の「影」の部分への嫌悪感
一方で、本の中盤以降に登場する「サバイバル作戦」には、倫理的に納得しがたい部分も多く含まれていました。
特に、上司の不満の矛先を自分以外の誰かに向けさせる「ターゲットすり替え(スケープゴート)」の推奨などは、いくら現実的な処世術とはいえ、受け入れがたいものです。著者はこれを戦略として正当化していますが、同僚との信頼関係を破壊するような手法は、長期的なキャリアにおいてマイナスになるのは間違いありません。
まとめ:戦略的な知恵だけを抽出し、あとは反面教師に
なぜこのような属人的な評価制度が残り続けるのか。著者は、評価する側にとってもそれが「権力の確認」という楽しみの一部だからだと述べています。この冷徹な分析は、組織の不条理を理解する助けになります。
本書の内容をすべて鵜呑みにし、同僚を犠牲にするような振る舞いをすれば、たとえ一時的に給料が上がったとしても、大切なものを失うことになるでしょう。
第4章・5章の戦略的な目標設定や交渉術だけを自分の「武器」として取り入れ、残りの部分は「組織にはこういう理不尽な側面がある」という知識として、反面教師にするのが賢明な読み方だと言えます。









