「送料無料まであと800円」と表示されると、必要でもないものをカートへ足してしまう。無料にするためにお金を使う。よく考えると変な話ですが、心当たりはありますよね。
ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』は、そんな判断の癖を実験で見せてくれる本です。「あの話、何だっけ」と後から引き直せるよう、全15章をざっくりまとめておきます。
ざっくりどんな本?
人はいつも合理的に選ぶわけではありません。でも、でたらめに間違えるわけでもない。比較対象があれば相対評価をし、「無料」には必要以上に引かれ、一度手に入れたものは手放したくなくなる。ズレ方には、それなりの癖があります。
体系を網羅した辞書というより、身近な実験を集めた入門書。ただ、気になる項目を後から拾い読みできるので、私には辞書っぽい使い方が合いそうでした。
今回読んだのは、熊谷淳子訳のハヤカワ文庫版です。
全15章を一言で
細かい実験まで書くと長くなるので、思い出すための一言だけ。
| 章 | タイトル | 一言メモ |
|---|---|---|
| 第1章 | 相対性の真相 | 価値は単体より比較で決まる。松竹梅で「竹」を選びがちなやつ。 |
| 第2章 | 需要と供給の誤謬 | 最初に見た数字が基準になる。いわゆるアンカリング。 |
| 第3章 | ゼロコストのコスト | 「無料」は別枠。必要性や手間の計算が飛びやすい。 |
| 第4章 | 社会規範のコスト | 好意の関係にお金を持ち込むと、やる気や関係が壊れることがある。 |
| 第5章 | 無料のクッキーの力 | 無料で配られる場面では、欲張らず周囲に遠慮しやすい。 |
| 第6章 | 性的興奮の影響 | 冷静な自分には、興奮した自分の判断が読めない。実験もなかなか攻めている。 |
| 第7章 | 先延ばしの問題と自制心 | 自制心だけでは厳しい。締め切りは外から決められたほうが効きやすい。 |
| 第8章 | 高価な所有意識 | 自分のものは高く見える。保有効果。 |
| 第9章 | 扉をあけておく | 使わない選択肢でも、失うのが嫌で維持費を払ってしまう。 |
| 第10章 | 予測の効果 | ブランドや雰囲気から生まれた期待が、実際の体験まで変える。 |
| 第11章 | 価格の力 | 「高いほうが効く」という期待が、感じ方や成績にも影響する。 |
| 第12章 | 不信の輪 | 怪しい売り方は信頼を削り、まじめな提案まで疑われる。 |
| 第13章 | わたしたちの品性について その1 | 人は「少しくらい」とごまかす。道徳を意識させると不正が減った。 |
| 第14章 | わたしたちの品性について その2 | 現金よりポイントなどのほうが、ごまかしへの抵抗が弱くなりやすい。 |
| 第15章 | ビールと無料のランチ | 人の目を気にして、本当の好みとは違う注文をすることがある。 |
心当たりがありすぎる
特に刺さったのは、やはり「無料」です。送料を払うのは損に見えるのに、送料より高い商品を追加することには妙に抵抗がない。支払総額で見れば簡単なはずなのに、毎回きれいに負けています。サブスクの無料体験も似たようなものですね。
アンカリングも耳が痛い。SaaSの料金表で最上位プランを見たあと、真ん中のプランが急に手頃に見える。数字で比べているつもりでも、その物差し自体を相手から渡されています。
「扉をあけておく」もあるあるでした。いつか使うかもしれないサービス、途中まで触ったツール、更新だけ続けているドメイン。ひとつずつは小さくても、抱え込むと地味に管理対象が増えていきます。
知ったあと、どう使うか
仕組みを知れば全部見抜ける、とは思いません。読んだ直後でも「期間限定」や「無料」には普通に反応します。人間はしぶとく不合理です。
それでも、「これはアンカーかも」「おとりを置かれているかも」と名前が浮かぶだけで、一呼吸は置きやすくなります。かなり素朴ですが、まずはこの3つから。
- 「無料」を見たら、解約の手間まで含めて考える
- 気持ちが高ぶっているときは、大きな決断を翌日に送る
- 使っていない選択肢には期限を付ける
本書はナッジの解説書ではありませんが、読んでいると「選び方をどう設計するか」という話につながってきます。自分や相手が良い選択をしやすくするために使うのか、焦らせて契約させるために使うのか。そこは分けて考えたい。悪用はしません。たぶん。
全部を毎回チェックするのは面倒なので、まずは「いま、外から判断の基準を置かれていないか」と一呼吸。それだけでも、送料無料のために余計なものを探す回数は少し減りそうです。
心当たりが多すぎて少し困る。でも、だからこそ手元に置いて、ときどき引き直したくなる一冊でした。





